それは単なる霧のように見えた
しかし、中に入った者は誰も帰ってこなかった
事件の発端は各地を結ぶトラック運転手の携帯端末に偶然記録されていた。
それは雨の中、昔の遺跡と見られる場所の上空5mほどに浮かぶ霧の塊だった。
当初は単なる異常気象と思われていたそれはまたたく間に膨れ上がり農地を飲み込み、
道路を越え住居市街地まで到達した。
多くの人が気付いた頃には既に直径4キロ高さ200メートルを超えており、
そのまま時速40mの速度で拡大を続けていた。
「霧の中に入ると行方不明になる」
単純だが到底理解しがたい事態に現地は大混乱に陥った。
しかしその地域の駐留ロシア軍情報部は早い段階から独自に調査を開始していた。
まず霧の内側に周辺区域から大急ぎでかき集めた大量のドローン(飛行型と装輪型)
が送り込まれた。
しかし帰ってきたのは少数の飛行ドローンだけだった。
それも高度な自律AIを搭載しているものだけ。
とはいえ、これはある程度予想されていたことでもあった。
実はごく初期の段階で駐留ロシア軍ハインドUAV二機が意図せず霧に偶然巻き込まれて
一時的に行方不明になっていた。
それらは燃料が切れる寸前に自力で帰還できたが、
先にこの件があったことが初期段階からのUAV,UGVの大量投入に繋がっていた
帰還した機体は僅かだったが、霧の内部で記録されていたデータは
予想を超えたものだった。
霧を抜けた先には本来の土地ではない広大な大地が広がっていた。
しかも自然由来だけとは思われない痕跡もあり、生物かどうかもわからないが
自ら地を動くものや飛行物体さえ確認されていた。
また、ほとんどは荒野だが記録された映像には
「塔」らしきものが多数映っているものがあった。
「霧の内部がどこか他の土地と繋がっている」
絵空事のような事態だったにも関わらず、ロシア政府の決断は早かった。
中央に報告された3時間後には大統領令による現地への介入が決定されると同時に
隔離と管理のためGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)、
その中の第13局の6課を中心とした現地派遣部隊の編成が開始されていた。
この時、発生から4日と16時間が経過していた